THE WORLD
HIP HOP
STUDIES

THE WORLD HIP HOP STUDIES REPORT

NEWS

辺境ヒップホップ研究会(第六回)
日時:9月23日(土)、9月24日(日)

2024.01.23

場所:国立民族学博物館 大演習室

①「ダースレイダーの極私的東京アンダーグラウンドヒップホップ史」 

ダースレイダー(ラッパー)

1996年に初めてラップしてからデビューして活動を広げる中で体験した私的な東京アンダーグラウンドヒップホップ史について話します。

②「ラッパーから市政へ――2022年カトマンドゥ市長選にみるヒップホップと政治」 

工藤さくら(国立民族学博物館)

2022年5月26日、カトマンドゥ市長選挙で、無所属のバレンドラ・シャハは劇的な勝利をあげて市長となった。現代ネパールの政治史の中心だった共産党勢力や会議派をさしおいてだ。彼は、2000年代から“Balen”という名でさまざまな楽曲を発表し、ソーシャルメディアを中心に若者の間で知名度を上げてきたラッパーでもある。彼の楽曲Balidan(供犠[国家のための献身を意味する])は、現代政治への批判と政策の矛盾を強く訴え、選挙戦で多くの有権者の一票に影響を与えた。実はこの楽曲には、パンチャーヤト時代の民主化運動を題材にした、ある風刺映画の音楽が使用されている。本発表では、彼の楽曲の分析をとおして、この楽曲のインパクトと人びとが現代ネパール政治に求めることについて紐解いてみたい。

③「ヒップホップ音楽に見るプエルトリコ人のアイデンティティと抵抗――Somos los dueños de un país sin dueño」

村本茜(鹿児島大学大学院博士後期課程)

プエルトリコのヒップホップ音楽は、70年代にニューヨークの移住者たちにより始められた。その後ニューヨークと島の往来を通じ、90年代には母語スペイン語でのラップが主流となり、カリブの伝統音楽を取り入れるなどして独自のスタイルを確立していった。本発表では、主にプエルトリコで活躍するMCたちの語りも交えながら、そのアイデンティティを構成するルーツである先住民タイノ族、アフリカ、イベリアの言語や音楽性が顕著に表れた作品や、国家の財政破綻、ハリケーン被災といった逆境を乗り越えようとする作品を紹介する。その際、音やリリックから、先祖や「くに(país)」への愛、植民地主義に対する批判や抵抗に注目する。

④「南シベリア・ブリヤートからのメッセージ――ブリヤート語ラップから見る困難と希望」

牧志朋子(東京大学大学院修士課程)

モスクワから遠く離れた南シベリアに暮らす、モンゴル系集団・ブリヤート。ロシア世界とモンゴル世界、それぞれの中心から離れた「辺境」で暮らす彼らは、社会の周縁者の声を伝える手段――ヒップホップを1990年代後半に受容した。民主化後の社会の混乱と変化、そしてブリヤートの言語や文化がロシアのそれに圧倒される状況において、ブリヤートの人々はどんなことば、想い、メロディーを紡いできたのか。本発表では、主にブリヤート語ラップ等のメッセージを通して、ブリヤートが抱える困難や希望を紹介する。