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辺境ヒップホップ研究会(第三回)
日時:2022年11月19日(土)
2023.06.27
会場:国立民族学博物館 第四セミナー室
①「『Slingshot Hip Hop』から15年――パレスチナ・ラップの現在」
山本薫(慶応大学)
イスラエル、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区に分断されたパレスチナ人ラッパーたちの、音楽を通じた交流を描くドキュメンタリー映画『Slingshot Hip Hop』(邦題『自由と壁とヒップホップ』)の制作から15年。この間、シーンをリードし続けてきたDAMを中心に、パレスチナ・ラップの歩みと最新地点を紹介します。
②「戦時下のウクライナ・ヒップホップ」
赤尾光春(国立民族学博物館)
2014年のマイダン革命以降のロシアとの紛争の劇化により、ヒップホップを始めとするポピュラー音楽では、ロシア語からウクライナ語への切り替えとウクライナのフォークロアや歴史のモチーフの前景化が進んだ。こうした動向はウクライナ侵攻で決定的となり、ヒップホップは、とりわけウクライナ民謡と融合する形で戦時下の国民生活を襲った受難とロシアに対する抵抗を表現する手段として独自のスタイルを確立して現在に至る。本発表では、ロシアとの紛争の過程で創作されたヒップホップの主要な楽曲の紹介を通じて、ウクライナ社会でヒップホップがどのように受容され、独自のスタイルが確立されるに至ったかを跡づけるとともに、ウクライナの新たなアイデンティティの構築にいかなる貢献を果たしたかを概観する。
④特別講演「モンゴルとの出逢いから和太鼓ラップへ」 ハンガー(GAGLE)
ゲストコメンテーター:ダースレイダー(ラッパー)
⑤「複言語・複文化を生きるチベッタン・ディアスポラのヒップホップ」
佐藤剛裕(独立研究者)
チベット人の間から本格的なヒップホップが受け入れられたのは2010年代に入ってからだった。外的要因としては仏教を厚く信奉する善良な難民の姿を演じ続けることが期待されてきた上、内的要因としてもチベット人社会においても文化的・言語的ナショナリズムやエスノセントリズム的な側面があり、欧米に移住したチベット人にすらヒップホップ的な文化の受容がなかなか進まなかったという指摘もある。そんな中、ヒマラヤと掛け離れた環境であるデリー郊外のチベット難民が密集する路地、マジュヌカティラを主拠点とした北インドのダラムサラや南インドなどの難民キャンプのミュージシャンのネットワークで、新たな「いま・ここ」を生きるチベット難民としてのアイデンティティーを歌い上げる複言語・複文化的な能力の発露が起こっていることに注目する。