THE WORLD
HIP HOP
STUDIES

辺境ヒップホップ研究会 研究報告

NEWS

辺境ヒップホップ研究会(第五回)
日時:2023年6月10日(土)・11日(日)

2023.06.28

開催場所:国立民族学博物館 第一会議室

①「反体制としてのコンピューターゲーム文化史」

徳岡正肇(アトリエサード)

・コンピューターゲームとヒップホップ文化の距離は、その黎明期においては遠かった(コンピューターの能力が低すぎて、音楽にせよ映像表現にせよ限界がありすぎた)。
・コンピューターゲームが産業として発達していくなか、アメリカにおいてはヒッピー文化と結びつき、日本においてはストリートカルチャーと結びついた。
・当局との間で様々な衝突を発生させ、アメリカでは上院で公聴会が開かれるに至り、日本では警察白書(S56)で「少年の非行を助長し、健全な育成を阻害する要因」と名指しで非難された。
・その後、ゲーム産業はより「ご家庭向け」の領域で発展していくが、それでも「社会的なタブーに挑む」方向性が完全に失われることはなかった。
・またヒップホップ文化の直接的な受容も、日米で同時期に行われている(日本においてはヒップホップの紹介者であったYMOの細野晴臣が、初のゲームのサントラ『ビデオ・ゲーム・ミュージック』を1984年にリリース)。
・ゲーム産業が超高度化・超大型化してからも、ゲームの個人制作者は様々な形で活動を続け、カオスな(あるいはカオスから)ゲームを発表し続けた。

一方、ヒップホップ文化が産業として巨大化し、ハイブランドとのコラボなども珍しくなくなっていったことにあわせるように、大型ゲームタイトルがヒップホップ文化を直接参照することも増えていった(開発費用が高騰し、「オタク/nerd」以外にもゲームを売る必要が発生したため)。
・現代に至っては、かつてはゲームを有害と定義したオーソリティ側に対し、ゲームの価値そのものを認めさせるような作品も生まれている。だがそういったゲームは往々にして「インディーズ」作品でもある。

②「内在的社会批判のアポリア:イラン・ペルシア語ラップの軌跡と展開」※オンライン

谷憲一(オックスフォード大学)

本発表の目的は、イラン・ペルシア語ラップの軌跡と展開を社会批判という観点から検討することで、イラン国内におけるラップを通じた社会・政治批判の可能性と困難を明らかにすることである。まず、イスラーム共和国体制の近年の政治状況および、音楽の微妙な位置づけについて概観する。そして先行研究を再構成しながらペルシア語ラップの発展の中で内在的社会批判が目指されつつも困難に遭遇してきたことを議論する。最後に最近国内で登場した世代によるラップの中でなされる内在的社会批判の特徴について議論する。

③「国家統制と社会矛盾のはざまで模索される「中国の特色ある」ヒップホップ」

奈良雅史(国立民族学博物館)

中国においてヒップホップが受容され始めたのは1990年代末である。当初、英語で実践されていたヒップホップは、2000年代以降、中国語のみならず、方言や少数民族の言語でも実践されるようになった。それは中国各地におけるローカルなシーンの形成を促進した。2017年、それまで主にアンダーグラウンドで実践されてきた中国のヒップホップは大きな転機を迎えることとなる。ヒップホップオーディション番組が人気を博し、中国で広くヒップホップが受け入れられるようになったためだ。しかし、それは同時に国家からの規制をも惹起することとなった。本発表では、中国におけるヒップホップ史を踏まえ、中国人ラッパーたちの作品を事例として、国家統制が強化され、社会矛盾が増大する中国において、ヒップホップがいかに実践されてきたのかを考察する。

④特別講演:インドのヒットメイカー、カラン・カンチャン(Karan Kanchan)さんのトーク

特別講演:インドのヒットメイカー、カラン・カンチャン(Karan Kanchan)さんのトーク記事を見る